古代文明における「国家の隆盛」と「鉄・鋼との密接な関係」についてご紹介
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今回は、古代文明における「国家の隆盛」と「鉄・鋼との密接な関係」についてご紹介します。
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国家の隆盛や衰退深い関係をもつ「鉄器具」
BC2600年からBC500年前後までの期間において、国家の隆盛や衰退は、国内で製造された鉄器具と深い関係をもっていました。例えば、古代エジプトの権威の象徴でもあるピラミッド建立には鉄器が使用され、卓越した鉄鋼の冶金技術を開発したトルコのヒッタイト古代王国は、近隣諸国を鉄器武力で圧倒することができました。
また岩塩産出で人々が富裕であったオーストリアのハルシュタットには、鉄器文化の導入でさらなる繁栄がもたらされています。
エジプト
BC2600年頃、エジプトのピラミッド築造にあたり、花崗岩の細工に鉄器が使用されていました。1920年、ベルギーの化学者、ドラクル(MauriceDelacre)の著作『化学の歴史』の中に、ピラミッドの中に鉄片遺品の発見についての記述があり、鉄器の製造がこの時代にあったことを示唆しています。
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ヒッタイト王国
BC3000年頃に、現在の中央アジア、ウズベキスタンやイラン周辺に居住していたと思われるアーリア(Arian)民族が、地球気温の下降によって、より温暖気候のトルコへ民族的移住を行い、ヒッタイト(Hittites)人となります。
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彼らはBC2000年頃、先住民族ハッティ(Hatti)と共住するようになり、ハッティ人より継承した鉄の冶金術、鉄器製造の技術を身に付けることになります。
古代王国の成立
そして強力な二輪戦車(馬が牽引する)で近隣諸国を次第に圧倒することになります。こうしてBC1680年に、トルコのヒッタイト古代王国が成立したのです。
ヒッタイト人「浸炭法」で純鉄に炭素を混入させて鋼の製造に成功
BC1595年には、隆盛極めるヒッタイト王国は、隣国のイラクのバビロン(Babylon)第一王朝を滅ぼし、BC1400年頃、ヒッタイト王国では、浸炭法で純鉄に炭素を混入させて鋼の製造に成功しています。
軍事力の革命「鋼を使用した武器」
こうして作成される鋼を使用して、二輪戦車の強化および頑丈な槍や刀剣の制作が可能になり、軍事力が格段に増強されるようになります。いわば、軍事力の革命でした。こうして中近東では、BC1360年頃、最強国家のヒッタイト王国が成立することになります。
ヒッタイト王国の最盛期の領土(斜線部分)
ヒッタイト王国の衰退
BC1200年頃から、エジプトやキプロス島に居住し「海の民」と呼ばれた海賊たちが、ヒッタイト王国の軍事力が発揮しづらい海岸で食糧などを略奪、民を脅かし始めます。これに連鎖するかのように、国内の食糧事情の悪化や王族間の内紛により、ヒッタイト王国は衰退することになります。
国家機密の「鋼の製法」が国外に流出、ヒッタイト王国の滅亡
同時に、国家機密の鉄や鋼の製法が国外に漏れ始めます。今日では歴史的に、これを「紀元前1200年のカタストロフィ」と名付けられています。そしてついに、BC1075年にヒッタイト王国は滅亡することになります。それに伴い、製鉄や製鋼技術が国外に流出し、これが地中海地域やオリエントでの鉄器製造発展の大きなきっかけとなり、鉄器時代の幕開けとなったのです。
ヒッタイト王国の首都ハットゥシャの遺跡
ギリシャ、インド
ヒッタイトの滅亡に先駆けて、BC1150年にユーゴ近辺のドーリス人(Dorisian)がギリシャへ侵入します。ドーリス人たちはギリシャで鉄製の武器と道具を使用していました。また、BC1000年頃に、中近東の広い地域に居住していたアーリア人の一部は、さらにパキスタンを経て、西インドから東インドへ移住した。彼らは鉄器でできたノコギリを使用して森林を開拓していたといいます。
BC1000年頃のこととして、旧約聖書のダビデ(Davide)の時代に以下のような記述があります。
「やりの穂の鉄」(『サムエル記』上、17章7節) 「鉄ややりの柄をもって武装する」(『サムエル記』下、23章7節)
また、ギリシャにおけるBC750年頃のこととして、ホメロス(Homer)『オデュッセイヤ』に以下のような記述があります(物語の時代はBC1200年頃)。
「斧を赤熱に鍛え冷水に漬くるは鉄を強く且つ硬くするの道」。
ハルシュタット（オーストリア）
人々の生活に必要な水と塩分(岩塩)が充分に供給できたオーストリアのハルシュタット(Hallstadt)では、早くから文明が開け、BC550年頃から青銅器に代わって鉄器が製造され始めます。これがハルシュタットの初期鉄器文化です。BC480年には、後期鉄器文化が最盛期を迎えることになります。
ハルシュタットの教会と町並み
ハルシュタットは、オーストリアの山の中で、今では「ザルツカンマーグート(Salzkammergut)の真珠」といわれる湖のほとりにある地域。紀元前には交通の便が悪かったにもかかわらず、鉄器文化が早期に繁栄したことは興味深いこと。
塩の要塞都市「ハルシュタット」
その理由として考えられるのは、ハルシュタットには非常に良質の岩塩坑があり、人間の生存の最大必要条件である、塩と水の十分な供給ができたからだと推測できます。
この町は岩塩の交易で栄えた「塩の要塞都市」として成り立ちから、世界遺産にも登録されています。
ハルシュタットの近くにあるリゾート、セントウォルフガング湖のほとりにあるセントウォルフガング(St.Wolfgang)から登山電車で山頂に至ると、映画『サウンド・オブ・ミュージック』でジュリー・アンドリュース(JulieAndrews)が歌った場所を見ることができます。
西と東の国家の鉄
鉄器が国家の繁栄をもたらした例として、ローマ帝国とインドのマガダ王国があげられます。
ローマ帝国
ローマ人は、ライン川とピレニー山脈との間(大体、現在のフランス)の、先住ケルト民族が住んでいた地方をガリアと呼んでいました。聖書に「カエサルのものはカエサルに」とあるジュリアス・シーザー(Julius Caesar,BC100~44)の『ガリア戦記』には、当時のローマ人にとっては蛮族であるスイスのヘルウェティー(Helvetia)人、ガリー(Garie)人、ゲルマン(German)人、ベルガエ(Belugae)人との戦闘でたたびたび窮地に陥ったとあります。
なぜなら、ガリアやゲルマニアでは既に製鉄の技術が獲得され、鉄器で十分な武装をしていたからです。
ブリトン人(British)の優秀な製鉄技術が、ヨーロッパへ各国へ
また、シーザーはイングランド征服にも失敗しましが、これもブリトン人(British)の優秀な製鉄技術に負かされたといっていいのかもしれません。
なお、Britishは「ブリトン島にいたケルト人」を意味し、後にウェールズ(Wales)、アイルランド(Ireland)、スコットランド(Scotland)などに逃れることになります。これら地方の製鉄技術の文明は伝統として受け継がれ、後にフランス、ベルギー、オランダ、英国が、製鉄を軸とした先進工業国へと発展する下地となってゆきます。
オーストリア、アルプス産出の鉄により繁栄がもたらされた「ローマ帝国」
BC27年にローマ帝国初代皇帝となったアウグストゥスの時代以降のローマ帝国には、オーストリア、アルプス産出の鉄によって繁栄がもたらされることになります。
マガダ王国：ダマスカス鋼のはじまり
BC400年頃、マガダ王国では酸化鉄鉱石から鉄を生成していた
東に目を向けると、BC400年頃に、ベンガル(Bengal)の西、デカン高原の東北部のマガダ(Magada)王国では、酸化鉄鉱石を丘陵から剥ぎ取り、木炭による固体還元精練から白熱した鉄を作成し、武器や農機具の材料としていました。
ダマスカス鋼の始まり
また高級鋼材として知られている「ダマスカス鋼」の始まりは、製鉄技術に長けたフェニキア人によりシリアのダマスカス(Damascus)に運ばれ、インドのウーツ鋼(Wootzsteel)として珍重され、その品質の高さから「ダマスカス鋼」とよばれるようになったと言われています。
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ウーツ鋼の作り方
ウーツ（ダマスカス）鋼の作り方は「るつぼの中に酸化鉄と木炭を入れて密封し、外から強く加熱還元させて溶けた鋼を得る」というものでした。
ウーツとはサンスクリット語で「無類の硬さ」を意味します。
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