日本の建築様式に大きな影響を与えた「鋸（ノコギリ）の歴史」についてご紹介

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今回は、日本の建築様式に大きな影響を与えた「鋸（ノコギリ）の歴史」ついてご紹介します。

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弥生時代末～古墳時代にかけて中国から伝わった「鋸」

中国から伝わったのは、弥生時代末から古墳時代にかけてのことだとされます。しかし、くわしいことはわかっていません。5世紀の古墳から、副葬品として納められた鋸が発掘されているので、古墳中期には存在していました。

出土品は小型で、建築用ではなく細工に用いられたものだと考えられています。副葬するくらいだから、当時としてはかなり貴重な品だったようです。

古墳から出土した鋸

補助的な役割を演じる程度だった鋸

板を使った建物は縄文時代に始まり、古墳時代を経て、飛鳥時代には法隆寺など巨大な建物が建てられていきます。鋸も徐々に大型化し、建築道具に加わっていくのですが、飛鳥時代に至っても鋸で製材されることはなく、法隆寺建立においても、材木の長さを調整など補助的な役割を演じる程度だったといいます。

鋸を使わなかった時代、板はどうやってつくられていたのか？

では、板はどうやってつくられたのか。寄り道して、そのあたりを見ていきましょう。まずは木の伐採ですが、斧で木を切り倒して柱をつくっていました。

弥生時代に鉄斧が生まれ作業効率は4倍に

ちなみに、弥生時代に朝鮮半島から鉄が伝播し、鉄斧が生まれています。木の伐採はそれ以前の石斧に比べ、飛躍的に効率が高まったそうです。鉄斧は石斧よりも、およそ4倍の速度で伐採できたという研究もあります。

伐採には古くは石斧(下)、その後は鉄斧(上)が使われていました

「打割製材」とは

斧で伐採された柱には、鑿やクサビを縦方向に何本も打ち込み、木を割ってブロックにしていきます。これを「打割製材」と呼ぶ。そのブロックを、チョウナではつって薄く削り、さらにヤリガンナをあてて、板の表面を仕上げていました。

中世までは丸太にクサビを打ち込んで割り、板をつくっていた

板を薄くするためのチョウナ(右)と仕上げ用のヤリガンナ(左)

法隆寺などの壁や天井板が厚い理由は？

とはいえ、この方法では薄い板はつくりにくい。チョウナで板厚を薄くするのには膨大な時間がかかります。法隆寺などの壁や天井板が厚いのにはこんな事情があったのです。なお、鑿やチョウナ、ヤリガンナは、古墳時代に大陸から伝来しています。

縄文時代末から室町時代の中頃まで続いた「打割製材」

縄文時代末あたりに始まった打割製材は、なんと室町時代の中頃まで続くことになります。縦挽き鋸が登場し、鋸で板を挽く製材法がなかったわけではないのですが、それでも打割製材が板づくりの中心を占めていました。

鋸が普及しなかったのは、鉄の加工技術の問題

というのも、鉄の加工技術が稚拙で、鋸板の質に問題があったからです。薄くすれば折れるし、厚くすれば切り幅が広がって挽けなくなる。これでは製材といった荒仕事は任せられなかったのです。

中国式の押し挽きから葉型鋸（手前にも挽けるスタイル）が登場

その一方で、鋸も少しずつ進化していきます。13世紀には木の葉を半分にした形状の木の葉型鋸が登場。それまでの鋸は中国式の押し挽きだったが、手前にも挽けるスタイルを採用した。一つの画期といえます。その流れを受け、15世紀には現在と同じ挽き使いに限定した鋸がつくられることになります。

大鋸の登場で主役の座を降りることになる「打割製材」

鎌倉時代から室町時代中頃にかけて、鋸が中国からやってきました。二人が交互に押し合って切る巨大な鋸で、そのため中間で刃の向きが逆になります。材を立て、人が上下に位置する形で挽いています。真ん中の棒の左右に鋸刃と紐がセットされる紐は鋸板の張りを保つためでした。

大鋸はパワフルで、厚い丸太を縦方向に切っていけるため、この道具の出現により、製材の効率があがり、歩留まりもよくなって、千年以上続けられてきた打割製材も、ついに主役の座を降りる時代がやってくることになります。

15世紀の絵巻『三十三番職人歌合』に描かれた、力を合わせて大鋸を交互に押し合い、大きな材から板をつくる二人の職人

大鋸（挽割製材）登場で一変する日本の建築様式

この大鋸を用いて始まった板づくりを「挽割製材」と呼んでいます。ちなみに、鋸から出る大鋸屑の語源は、中国からやってきた大鋸です。大鋸の活用で薄い板が製材できるようになり、建築様式は一変することになります。

室町時代、美的で繊細な書院造、建物が建てられるようになった背景は？

室町時代に、書院造といった美的に繊細な建物が建てられるようになった背景には、薄板が利用できる挽割製材の普及があったのです。また、打割製材では避けざるを得なかった、木目の捻じれたマツや硬いケヤキも、挽割製材なら利用可能になり、扱える樹種の広がりは、建築に多様性をもたらすことになります。

大鋸

二人挽きの大鋸から一人挽きの前挽き大鋸へ

しかし、二人挽きの大鋸の時代は、そう長くは続かなかったようで、16世紀に一人挽きの前挽き大鋸が誕生したからです。この前挽き大鋸は日本オリジナルで、製鉄技術の向上が背後にありました。

電動鋸出現まで、製材の中心を担うことになる「前挽き大鋸」

大鋸に取って代わった理由は、手軽さにあったと考えられています。前挽き大鋸は、電動鋸が出現する近年まで、製材の中心を担うことになります。

前挽き大鋸

「木挽き/大鋸挽き」専門集団も登場

挽割製材の普及拡大により「木挽き」あるいは「大鋸挽き」と呼ばれる専門集団も大工から分離して生まれることになります。江戸時代の浮世絵では、大工と木挽きは別の職業として描き分けられている。

江戸時代の木挽き職人

前挽き大鋸を操って、製材をする木挽き職人を描いた江戸時代の浮世絵。大変な重労働でした。

江戸時代に多様化してゆく「大工手道具」

江戸時代には、大工手道具が多様化してゆくことになり、鴨居の溝を掘るだけの鴨居鋸のほか、鋸も用途に応じた製品が開発されていくことになります。今でも残る専門色の強い鋸の多くは、江戸時代に開発されたものが少なくありません。江戸時代の大工は花形職業で、賃金も一般に比べてかなり高かったそうです。

海外の製鉄技術の流入から誕生した「両刃鋸」

明治時代になると、海外の優れた製鉄技術が流入することになります。それ以前は、砂鉄からつくった玉鋼を鍛冶が叩いて板状にしていましたが、工業的に厚さが均質な精度の高い鋼板が量産される時代になってゆきます。

縦挽き鋸と横挽き鋸を合体させた、両刃鋸が明治期に生み出されたのは、そんな板鋼の進歩が背後にあります。

明治時代に開発された両刃鋸は現在でも手打ち鋸の主流

リンク

電動鋸や替え刃式鋸の登場で衰退する「手打ちの鋸」

多種多様な鋸を生み出してきた手打ちの鋸産業ですが、やがて電動鋸や替え刃式鋸という強敵とぶつかるようになり、手打ちの鋸は産業として先細りになり、後継者の確保も困難な状況に陥っています。手打ちのよさが再確認され、多くの人が再び手にすることを願うばかりです。

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日本の建築様式に大きな影響を与えた「鋸（ノコギリ）の歴史」についてご紹介

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弥生時代末～古墳時代にかけて中国から伝わった「鋸」

補助的な役割を演じる程度だった鋸

鋸を使わなかった時代、板はどうやってつくられていたのか？

弥生時代に鉄斧が生まれ作業効率は4倍に

「打割製材」とは

法隆寺などの壁や天井板が厚い理由は？

縄文時代末から室町時代の中頃まで続いた「打割製材」

鋸が普及しなかったのは、鉄の加工技術の問題

中国式の押し挽きから葉型鋸（手前にも挽けるスタイル）が登場

大鋸の登場で主役の座を降りることになる「打割製材」

大鋸（挽割製材）登場で一変する日本の建築様式

室町時代、美的で繊細な書院造、建物が建てられるようになった背景は？

二人挽きの大鋸から一人挽きの前挽き大鋸へ

電動鋸出現まで、製材の中心を担うことになる「前挽き大鋸」

「木挽き/大鋸挽き」専門集団も登場

江戸時代に多様化してゆく「大工手道具」

海外の製鉄技術の流入から誕生した「両刃鋸」

電動鋸や替え刃式鋸の登場で衰退する「手打ちの鋸」

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