「ナイフ式バヨネットの歴史」についてご紹介｜アメリカ軍ミリタリーナイフの歴史
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今回は、「ナイフ式バヨネットの歴史」についてご紹介します。
「ナイフ式バヨネットの歴史」についてご紹介
各種ナイフの中でミリタリー限定の存在がバヨネット(銃剣)です。バヨネットの誕生は17世紀に遡り、その名は最初に作られたフランスの町バイヨンヌに由来します。バヨネットは単発式マスケット銃に装着して「槍」とするもので、歩兵が無防備となる装填時の防御や、突撃時の武器として使われてきました。
戦場の変化と共に求められるバヨネットの役割
初期バヨネットのブレイドは断面が三角形の槍状でしたが、19世紀には剣状のブレイドも登場。その後19世紀末から20世紀初頭における銃器と火砲の発達で、歩兵の密集隊形は過去のものとなり、銃剣には白兵戦用の武器としての用途が求められるようになります。
19世紀までブレイド長は馬上の敵騎兵に届くことが前提で、30〜40cmが一般的。初期のナイフ式バヨネットも同様でしたが、軍の機械化が進むと車上で邪魔になり、またブレイドの長さが白兵戦の優劣を決めるわけでもなく、ブレイド長は20cm前後が主流となります。そしてバヨネットは本来の用途よりも、多用途ナイフとしての性格を強めていくことになります。
初期アメリカ軍のバヨネット
アメリカ陸軍最初のナイフ式バヨネットはM1892でしたが、そのオリジナルはスイス軍のM1889バヨネットで、純然たるアメリカ製ではありませんでした。20世紀に入りアメリカ陸軍は新型ライフルを開発し、これをM1903(通称スプリングフィード・ライフル)として採用します。
「かつて見たこともないほど貧相」M1903バヨネット
M1903ライフルは銃身の下にロッド状のバヨネットを収納する設計でしたが、当時の大統領セオドア・ルーズベルトはこのバヨネットを「かつて見たこともないほど貧相」と酷評。そして、銃剣が日露戦争(1904〜05年)で白兵戦の有効な武器として使用されている点を指摘しています。
「戦う武器」として採用されたM1905バヨネット
これを受けてM1903ライフル用ナイフ式バヨネットが開発されることになり、重視されたのは「戦う武器」であることでした。こうして採用されたのがブレイド長40cmのM1905バヨネットです。
M1905バヨネット
第1次大戦で高く評価されるも、機動戦への移行から改修へ
M1905で印象的なのはポメル形状ですが、これは単体での使用時に相手を殴打することを想定したデザインでした。第1次大戦で白兵戦の武器として高く評価されたM1905バヨネットですが、戦後は軍の機械化で戦いのスタイルが機動戦へ移行。これによりM1905は車輌での移動時に不都合が生じるようになります。つまり着座時の邪魔になったのです。
ブレイド長を切り詰めた試作モデルM1905E1
そこでブレイド長を25cmに切り詰めた試作モデルM1905E1(型式の“E”は”Experimental”の略で「試作」の意)が製作されることになります。そして実用テストで「バランスが完璧で、白兵戦用の剣としても有効」と高い評価を得ることになります。
M1905E 1バヨネット
1943年2月、M1905E1バヨネット（M1バヨネット）正式採用される
そしてM1905E1バヨネットは、1943年2月にM1バヨネットの名称で採用され、同時に旧在庫のM1905のブレイドを切り詰めた改修モデルも生産されています。
M1カービン用バヨネット「M4」
最初はナイフ式バヨネットとして開発されたM3トレンチ・ナイフでしたが、1944年にM1カービン用バヨネット開発プランが再浮上。同年5月にはM4バヨネットが採用されますが、そのベースとなったのはM3ナイフで、ガード形状を変更して着剣装置を追加したものが製作されることになります。
M5(M1ライフル用)、M6(M14ライフル用)に受け継がれる
M4バヨネットの採用でM3は生産中止となりますが、そのブレイドは戦後採用のバヨネットであるM5(M1ライフル用)、M6(M14ライフル用)に受け継がれることになります。
M5バヨネット
M3ナイフの流れを汲む最後のバヨネット「M16ライフル用/AR15バヨネット」
そしてM3ナイフの流れを汲む最後のバヨネットが、M16ライフル用でした。アメリカ軍でM16(最初はAR15と呼称)を最初に採用したのは空軍で、1962年に採用されています。翌年も陸軍も採用。
AR-15バヨネット
最初にAR15を納入したのはコルト社で、専用バヨネットも同社が納入しています。 このバヨネットは一般にAR15バヨネットと呼ばれ、そのデザインはM4バヨネットに酷似していました。
ヴェトナム戦争に投入され「M7バヨネット」
その後陸軍は1964年にM7バヨネットを採用しますが、これはAR15バヨネットのハンドルを変更したもので、ワンピースのプラスチック製をネジ留めする左右分割のプラスチック製に改めた点が特徴です。
M7バヨネットはM16ライフルとともにヴェトナム戦争に投入されますが、アルミ合金とプラスチック製のM16は、白兵戦向きの銃ではないため、M7バヨネットは主にナイフとして使用されています。
M7バヨネット
しかしM7はコンバットナイフとしては不満も多く、陸軍はM7バヨネットのヒルトと海兵隊のケイバー・ナイフのブレイドを組み合わせたものを開発しましたが、採用は見送られることになります。
86年、M16ライフル用「M9バヨネット」を採用
1980年代にアメリカ陸軍は野戦装備の見直しを実施。86年にデザインを一新したM16ライフル用のM9バヨネット(M9MPBS。多用途銃剣システム)を採用することになります。
M9バヨネット
M9はワイヤーカッター機能を持つのが特徴ですが、バヨネットとワイヤーカッターの組み合わせは60年代に西ドイツのアイクホーン社が試作品を製作。またアメリカ軍もM7バヨネットにワイヤーカッター機能を付与したものを試作しています。
なお、ワイヤーカッター付きバヨネットを最初に実用化したのは旧ソ連軍で、1968年頃にAKMライフル用バヨネットを導入しています。
M9MPBS
試作バヨネットXM9開発のトライアル(採用予選)には海外を含め、複数のメーカーが参加しましたが、最終的にフロビス社のデザインが採用され、M9MPBSとして採用されます。同社は小規模な研究開発会社で、特殊部隊用装備の開発を行なうかたわら、ナイフメーカーのバック社と提携でナイフの販売を行なっています。
M9バヨネットのベースは同社デザインの“バックマスター”で、ブレイドとハンドルのデザインを変更して着剣装置を追加したものでした。
バック184″バックマスター”
M9の仕様
M9のブレイド長は18cmでセレーションが付き、厚さ約5cmの松板や飛行機の外板を切断可能。そしてスカバード(鞘)にはカッタープレートが付き、ブレイド前方の穴をスカバード(鞘)のT型突起に差し込めばワイヤーカッターになります。
海兵隊、多用途バヨネット(MB)を採用
ちなみにM9バヨネットはアメリカ陸軍の装備で、海兵隊では少数をテスト用に購入したにすぎず、これは海兵隊と陸軍でバヨネット(ナイフ)に対する要求が異なるのが理由で、海兵隊は2002年にケイバー・ナイフに良く似たデザインの多用途バヨネット(MB)を採用しています。
海兵隊多用途銃剣(MB)
M1905バヨネット
M1905バヨネットはアメリカ陸軍のスプリングフィールドM1903ライフル用で、開発の直接的きっかけは第26代大統領セオドア・ルーズベルトの書簡でした。ブレイド長40cm、全長52cmでグリップにはウォルナット(クルミ材)を使用。1906年から22年までに100万本以上が生産されています。
M1905E 1バヨネット
M1905バヨネットは有効な武器でしたが、軍の機械化で長さが欠点として指摘されるようになります。そこで長さ40cmのブレイドを25cmに縮めたものが試作されます(全長37cm)。これがM1905E1バヨネットで、M1バヨネットの原形となります。
第2次大戦中に生産されたM1905の短縮モデルは一般にM1942と呼ばれていました。
M1バヨネット
1943年2月採用のM1バヨネットは、M1905の長さ40cmのブレイドを25cmに短縮したモデルで、第2次大戦中に294万本以上が生産されています。ブレイドが短い以外はM1905バヨネットと基本的に同一ですが、生産性とコストの点からグリップがウォールナットからプラスチックに変更されています。
グリップの色は黒ですが、茶色のものも少数生産されていました。
M5バヨネット
M1バヨネットはM1903およびM1ライフルの双方に使用できましたが、1956年に採用されたM5バヨネットはM1ライフル専用となっています。最大の特徴は銃口に差し込むマズルリングが省略され、代わりに突起が取り付けられている点で、バヨネットとしては異色の存在。
ブレイドは、M1カービン用のM4バヨネットと同じデザインで長さ17cm。後にM14ライフル用にマズルリングを追加したM6バヨネットが採用されています。
AR-15バヨネット
最初にアメリカ軍に納入されたM16ライフルには、コルト社製のAR-15バヨネットが付属されます。全体のデザインはM4バヨネットに酷似していました。グリップはワンピースのプラスチック製で、表面はパーカーライズ仕上げ。1961〜62年にかけて約2万本が生産されていました。
ブレイド長17cm、全長30cmで、ブレイド右側面にはコルト社製(製造は下請けが担当)であることを示すマーキングが入れられていました。
AR-15バヨネットマーキング タイプ1
AR-15バヨネットマーキング タイプ2
M7バヨネット
1964年に採用されたM16ライフル用の銃剣で、M4バヨネットの流れを汲む、一連のアメリカ陸軍銃剣最後のモデル。陸軍では1987年にM9バヨネットに、海兵隊では2002年に他用途銃剣(MB)と交替するまでに約300万本が生産されています。
生産メーカーの中には西ドイツのアイクホーン社も含まれており、同社の生産分には”MADEINW-GERMANYのマーキングが入っていました(無いものも存在)。
M9バヨネット
M9バヨネットは1986年から支給が開始されたM16ライフル銃剣で、陸軍の制式名称はM9MPBS(MultipurposeBayonetSystem.多用途銃剣システム)。ブレイド長18cm、全長30cmで、クロスガードの両側には栓抜きとして使用する窪みが設けられています。
またM9バヨネットは、フロビス社と提携関係にあったバック社から市販モデルのバック188(軍用と部分的に異なる)が販売されていました。
M10スカバード
M9バヨネット用のM10スカパード先端にはカッティングプレートが取り付けられた製品。T型スタッド(矢印)にブレイドの穴を差し込んでワイヤーカッターとして使用します。
イラストは初期モデルで、スカパード本体とベルトファスナ一部をワンタッチで着脱できるようになっているのが特徴。スカパード両側面のスリットはアクセサリーポケット等のストラップを通すためのものです。
バック184″バックマスター”
M9バヨネットの前にフロビス社が開発したパックマスター(BUCKMASTER)はアメリカ海軍特殊部隊”SEAL”隊員の要望で開発され、提携関係にあったバック社によって製造販売されています。
M9バヨネットはこのモデルがベースですが、試作モデルはブレイドをワイヤーカッターとして使用するのではなく、スカバードにカッターを組み込んだデザインでした。イラストは初期モデルで、後にブレイド右側面には”BUCKMASTER”のロゴが入り、ブレイド長は19cmで、最大幅が3.7cm。
海兵隊多用途銃剣(MB)
2002年に導入された海兵隊の多用途銃剣MB(Multipurpose Bayonet)。全体的なデザインは海兵隊のケイバー・ナイフに似ていますが、セレーションが追加されているのが特徴。グリップには海兵隊の部隊章がモールドされています。ブレイド長20cm、全長34cm。
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