名物・児手柏を鍛えた大和 手掻派の名工「一手掻包永（てがいかねなが）」についてご紹介｜日本刀入門
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今回は、名物・児手柏を鍛えた大和 手掻派の名工「一手掻包永（てがいかねなが）」についてご紹介します。
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一手掻包永（てがいかねなが）
| 一手掻包永（てがいかねなが） | |
| 活動期 | 鎌倉時代末期 |
| 居住地 | 大和国東大寺転害門前 |
| 系統 | 大和国・手掻系 |
| 国宝数1、重文数6、重要美術品5、名物2 | |
| 銘 | 包永 |
多くの名工を輩出してきた大和国(奈良)
現在の奈良県はかつて大和国と呼ばれ、県庁所在地の奈良市は奈良時代「平城京」と呼ばれて、日本国の首都でした。平安時代以前からこの地で日本刀鍛造が行われ、多くの名工を輩出してきました。
| 「五箇伝」のご紹介 | ||
| 時代 | 特徴 | |
|
大和伝
|
鎌倉時代
|
【歴史】奈良で隆盛した大和伝では、奈良時代から作刀が始まっていたとされ、 鎌倉時代から南北朝時代が最盛期。 寺社との関わりが深く、僧兵の求めに応じて質実剛健な作風が追求された。 |
| 【作風】五箇伝の中で最も古く、刃文は沸出来の直刃仕立てで鎬が高く厚みがある。 地鉄は、柾目肌か板目肌。ときに肌目が流れる。 |
||
| 【主な流派(刀工)】千手院派(長吉)、当麻派(国行)、 尻懸派(則長)、手掻派(包永)、保昌派(貞宗、貞吉) |
||
|
山城伝
|
平安後期
~鎌倉末期 |
【歴史】平安時代から都がおかれた山城国は、長く政治文化の中心として栄えた。 天皇や貴族の要望に応えるため優美な刀剣が数多く造られた。 数ある流派の中でも粟田口派と来派は、鎌倉時代における山城伝の二大潮流。 |
| 【作風】詰んだ地鉄と優雅な反り。 腰反りや輪反りの体配で。 刃文は直刃で小乱や丁子が特徴。 |
||
| 【主な流派(刀工)】三条派(宗近、吉家)、 五条派(兼永、国永)、粟田口派(久国、国綱、則国、吉光)、 来派(国行、国俊、国光)、綾小路派(定利、定吉)、 長谷部派(国重、国信)、信国派(信国) |
||
|
備前
|
平安末期
~室町末期 |
【歴史】現在の岡山県南東部にあたる備前国は、古刀期における随一の鍛刀地だった。 平安時代末期から鎌倉初期にかけて活動した古備前派から歴史が始まり、 その後、一文字、長船などが隆盛した。作風は一つに集約できない。 |
| 【作風】砂鉄の産地に近く、匂出来の華麗な丁子乱と地鉄の映りが特徴。 | ||
| 【主な刀工】古備前派(包平、友成、真恒)、一文字派(助宗、吉房、助真)、 吉岡一文字派、片山一文字派、長船派(長光、光忠、兼光、康光、祐定) |
||
|
相州伝
|
鎌倉時代
|
【歴史】現在の神奈川県の一部にあたる相模国は、鎌倉幕府を擁して発展。 幕府成立後は、山城国や備前国から刀工が招かれ、鎌倉の地が一大鍛刀地となった。 その後、元寇(蒙古襲来)や南北朝の騒乱を契機により、鍛刀技術がさらに進化した。 |
| 【作風】長寸で重ねは薄く、切先はやや延びる。 板目に汚れや互の目の刃文、味わいある沸が特徴。 地鉄は板目肌に地景が加わる。 |
||
| 【主な流派(刀工)】新藤五国光、行光、正宗、貞宗、広光、秋広、広正、正広 | ||
|
美濃伝
|
南北朝
~室町末期 |
【歴史】現在の岐阜県にあたる美濃国で南北朝時代に鍛刀地として隆盛を迎える。 もともとは大和国の刀工が移住したことから始まり、 やがて相州伝を学んだ志津兼氏が美濃に移住した。 |
| 【作風】鍛肌は、板目肌を基調に鎬地に柾目肌があらわれる。 刃文は互の目や尖り刃、重ね薄く先反りで鋭利さが特徴。 |
||
| 【主な流派(刀工)】志津系(志津三郎)、金重系(金重、金光)、関系(兼元、兼氏、兼定) | ||
「大和刀」の中で突出して名品の多い「手掻包永」
「大和刀」として現存しているのは、ほぼ鎌倉時代中期以降の作例です。その大和刀の中で突出して名品の多いのが「手掻包永」です。「包永」は鎌倉時代後期から鍛刀に携わる手掻派の始祖であり、大和国を代表する名工として知られている人物です。
『図説刀剣名物帳』(雄山閣)に掲載されている、「名物 児手柏包永」の押形。
寺院と関係が深い「大和国五派」
この手掻派を含め大和国には「千手院」「当麻」「保昌」「尻懸」の五派が著名刀工流派として知られ、いずれも寺院と関係が深い集団でした。
| 【大和】「古刀時代(平安末期~戦国1595年)の刀匠/刀工一覧」のご紹介 | |||
| 国 | 流派 | 時代 | 名工 |
|
大和
|
千手院 | 鎌倉 | 千手院、重吉、康重、力王 |
| 南北朝 | 長吉、義弘 | ||
| 手搔 | 鎌倉 | 包永、包清 | |
| 南北朝 | 包吉、包真 | ||
| 室町 | 包俊、包重 | ||
| 当麻 | 鎌倉 | 国行、有俊、友長、友行 | |
| 南北朝 | 友清 | ||
| 尻懸 | 鎌倉~南北朝 | 則長 | |
| 保昌 | 鎌倉 | 貞吉、貞宗、貞清、貞興 | |
| 竜門 | 鎌倉 | (千手院派)、延吉 | |
| 金房 | 室町 | 政次 | |
「古刀時代(平安末期~戦国1595年)の刀匠/刀工一覧」のご紹介
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2024.03.18
江戸時代以前の「寺院」は武装していた
最古の「千手院派」は東大寺と関係が深く、「当麻」は当麻寺とつながりがありました。寺院と日本刀が関係するのは、江戸時代以前の寺院には僧兵がおり、自前で武装していたためです。
興福寺の「奈良法師」、延暦寺の「山法師」などが歴史的に有名です。
「賀茂川の水、双六の賽、山法師だけは私の思い通りにならない」
彼らは集団で強訴をし、敵対する寺院を襲撃するなど過激な行動をとっており、わがまま勝手で乱暴なことは、平安時代中期、院政を敷いて絶大な権力を誇った白河上皇をして「賀茂川の水、双六の賽、山法師だけは私の思い通りにならない」と嘆かせたほどでした。
東大寺と深い関係にあった「手掻派」
包永が起こした「手掻派」も東大寺と深い関係がある派でした。「手掻」という一風変わった称は、現在も東大寺の西を守護する「転害門」に由来するそうです。この近辺に居住しつつ鍛刀をしたため、「転害」「手掻」「天貝」などの字を当てて、「てがい」と呼んだといいます。
手掻派の名工であった包永も、こうした僧兵の求めに応じて作刀した。
刀匠たちの町であったことを現在に伝えている「包永通り」
ちなみに、現在の転害門から一条通りに面する町は、包永通りと呼ばれ(現在は西包永町と東包永町にわかれている)ており、この地が往時、刀匠たちの町であったことを現在に伝えています。
徳川家が所蔵していた名物「児手柏包永」
包永の作例で有名なのは、徳川家が所蔵していた名物「児手柏包永」です。この太刀の特徴は刃文にあります。表は盛んな丁子乱を焼いているのに対し、裏は直刃。児手柏という名称は、安土桃山時代の大風流人であった細川幽斎が、『万葉集』中にある「奈良山の児の手かしはのふた面にかにもかくにもねじけ人のとも」という一首からとったそうです。
題詞には
「侫人(心がねじくれた人)をそしる」とあり、歌意は「まるで奈良山に生えている児手柏のように、表の顔と裏の顔とで、あっちにもこっちにもいい顔をして、始末の悪いおべっか使いの輩よ」
となります。 恐らく、刃文が表裏で異なる点に細川幽斎が着目した結果、作例の名称となったのだと推測できます。
この児手柏は大正12年の関東大震災で被災して以降、長らく所在が不明でしたが、同作を所蔵する水戸の徳川ミュージアムが推進した「刀剣プロジェクト」によって写しが製作されて、現代によみがえっています。
太刀 銘 包永作(名物 児手柏) 徳川ミュージアム蔵
茎の裏に「兵部大輔藤孝磨上異名号児手柏」の切付銘があり、細川藤孝(幽斎)が刀身を短く磨き上げたことがわかります。細川家から徳川家康に献上され、関ヶ原合戦でも使用したと伝わります。
その後、水戸徳川家に伝来したが関東大震災で焼身となり、長らく行方不明となっていましたが、今日まで水戸の徳川ミュージアムで焼身の姿のまま保存されています(刃長69・6cm、反り2.4cm)。
大和刀の特徴
包永をはじめとした大和刀の特徴は、鎬が高く幅が広い姿、地鉄は柾目、または板目が流れること。刃文は作為のない緩やかな直刃調のものが多く、地刃ともに強い沸がつき、刃中にほつれ、砂流し、二重刃など激しい変化のある点があげられます。
「墨染めの僧衣に身をつつんで、眼光鋭い僧兵」
なかでも包永の作例は装飾性を一切排した無骨な姿が特徴的です。端的に表現すれば質実剛健。「墨染めの僧衣に身をつつんで、眼光鋭い僧兵」と評される所以です。
手掻派を継承する「美濃伝」
手掻派は、鎌倉時代末の混乱期に美濃の志津(現在の岐阜県海津市)に移住して兼氏と改名します。この美濃で日本刀製作を始めたことが、「五箇伝」のひとつ「美濃伝」のルーツになります。
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太刀 銘 包永 文化庁藏
地鉄は板目が細かく詰んだ小板目で、沸が随所にみえ、金砂子を引いたように見える美しい刀身。包永の作風を代表する名品とされる(刃長71.3cm、反り2.3cm/重要文化財)。
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