アップルが外部GPUを採用しない理由「GPUの歴史とアーキテクチャ戦略」についてご紹介
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他社製GPUの接続をサポートしない「Apple」
アップルシリコンは自社開発のGPUをその内部に統合する一方で、他社製GPUの接続をサポートしていません。M2ウルトラを搭載する新しいMac Proは、多数のPCle拡張スロットを備えているにもかかわらず、他社のGPUカードをサポートしないとされています。
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また、インテル(Intel)搭載Mac時代にサポートされていたサンダーボルト(Thunderbolt)接続のeGPUも、アップルシリコン搭載Macではサポートされていません。
アップルの外部GPUの利用について「アップルの意見」
2023年6月のWWDC(世界開発者会議)23で開催された「The Talk Show Live From WWDC2023」でMac ProがGPUカードをサポートしない点について、アップル幹部のインタビューはこう述べています。
アップル以外にはできない重要なことに集中したい
ディープラーニングなどのGPUコンピューティング分野におけるエヌビディア(NVIDIA)の業績を高く評価する一方、「アップルにできることはアップル以外にはできず、アップルは自社のユーザにとって、もっとも重要なことに集中したいと考えている」
ワールドワイドマーケティング担当上級副社長：グレッグ・ジョズウィアッ(GregJoswiak)
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他社GPUを導入することは、アップルが追求したい方向ではない
他社（NVIDIA/AMD）のGPUを導入してアップルシリコンに最適化することは、アップルが追求したい方向ではないとし、今後もGPUカードやeGPUなどの拡張性をサポートする考えがないと示しています。
ハードウェアエンジニアリング担当上級副社長のダン・リッキオ(DanRiccio)
アップルGPUのルーツ
「iPhone GPU」の歴史
| 「iPhone GPU」の歴史 | ||||
| リリース | モデル | SoC | GPU | メモリ容量 |
| 2007 | iPhone |
ARM1176JZ(F)-S
|
PowerVRMBX
Lite 3D |
128MB
|
| 2008 | iPhone 3G | |||
| 2009 | iPhone 3GS | APL0298C05 |
PowerVRS GX535
|
256MB |
| 2010 | iPhone 4 | A4 | 512MB | |
| 2011 | iPhone 4s | A5 | PowerVRS GX543MP2 |
1GB
|
| 2012 | iPhone 5 | A6 | PowerVRS GX543MP3 | |
| 2013 | iPhone 5s | A7 | PowerVR G6430 | |
| 2014 | iPhone 6 | A8 | PowerVR GX6450 | |
| 2015 | iPhone 6s | A9 | PowerVR GT7600 |
2GB
|
| 2016 | iPhone 7 | A10 Fusion | PowerVR GT7600Plus | |
| 2017 | iPhone 8/X | A11 Bionic | Apple GPU3コア | 3GB |
| 2018 | iPhone XS | A12 Bionic |
Apple GPU4コア
|
4GB
|
| 2019 | iPhone 11 Pro | A13 Bionic | ||
| 2020 | iPhone 12 Pro | A14 Bionic |
6GB
|
|
| 2021 | iPhone 13 Pro | A15 Bionic |
Apple GPU5コア
|
|
| 2022 | iPhone 14 Pro | A16 Bionic | ||
| 2023 | iPhone 15 Pro | A17 Pro | Apple Pro GPU6コア | 8GB |
iPhoneシリーズが採用するGPUの歴史。初代iPhoneからImagination TechnologiesのPowerVRシリーズを採用しており、独自設計に切り替わった後も、そのアーキテクチャをベースに性能や機能を強化しています。
2007年からPowerVRシリーズを採用し続けた「Apple」
アップルは2007年にリリースした初代iPhoneから10年もの間、イマジネーションテクノロジーズ(Imagination Technologies)のPowerVRシリーズをGPUに採用してきました。
イマジネーションテクノロジーズとは
同社は英国に拠点を置くファブレス企業で、もともとはビデオロジック(Video Logic)という社名でPC向けのGPUチップ「KYROシリーズ」を開発していたが、社名変更と同時にゲーム機やモバイル製品向けの省電力GPUコアのIPデザインをライセンス提供するビジネスに転換しています。
省電力で優れたメモリ利用効率を発揮したPowerVR
その優れた省電力性能に目を付けたアップルが、同社のGPU設計をiPhoneのSoCに採用します。PowerVRは省電力だけでなく優れたメモリ利用効率も大きな特徴で、わずか128MBのメモリしか持たない初期のiPhoneにとっては魅力的なGPUでした。
2017年、「iPhone8/X」からGPUを自社設計に切り替え
2017年1月、アップルはGPUを自社設計に切り替え、2年以内にイマジネーショテクノロジーズのIPライセンス使用を中止すると発表します。また同年リリースされたiPhone8/Xから、アップルシリコンには独自設計のGPUが採用されています。
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引き継がれるPowerVRシリーズのアーキテクチャ
とはいえ、アップルのGPUデザインオフィスにはイマジネーションテクノロジーズから移籍した技術者が多く、その開発拠点も同社からほど近い場所にあります。現在もアップルGPUのベースとなっているのはPowerVRシリーズのアーキテクチャであり、同社の知的財産を回避したうえで独自に拡張した設計を行っているものと推測できます。
アップルGPUアーキテクチャ（UMA）
Appleシリコンの特徴であるユニファイドメモリアーキテクチャ（UMA）では、メモリとファブリックを中心に処理ユニットが取り囲む構成で設計されています。メモリ上のデータの移動を最小限にすることで、メモリ消費を抑えつつ高速化と省電力化を実現しています。
再びイマジネーションテクノロジーズとライセンス契約「IMGシリーズ」
そんな2020年1月、イマジネーションテクノロジーズはアップルと新しいライセンス契約を締結すると発表します。2019年に同社が発表した新しいGPUデザイン「IMGシリーズ」に導入されたいくつかの新技術が、アップルにとって魅力的な存在だったようです。
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アップルシリコンの特徴
アップルシリコンの特徴は、メモリシステムを中核に置くUMA(Unified Memory Architecture)と、圧倒的なスケーラビリティにあります。
UMAではメモリとファブリックを中心に、CPU、GPU、ニューラルエンジン(Neural Engine)、メディアエンジン(Media Engine)、ISPなどの処理ユニットがこれを共有するシステム構造を採用。
GPUアーキテクチャはAシリーズ（iPhone）Mシリーズ（Mac/iPad）すべてに共通の構成
これらの処理ユニットを含む構成要素は、iPhone用AシリーズやMac(iPad)用Mシリーズすべてに共通しており、異なるのはそのスケール(構成数)だけです。つまりiPhoneとMacのGPUアーキテクチャは同一で、違うのはその規模のみという統一感のある設計方法が採用されています。
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Apple、社外GPUでは、省電力、ハイパワーは実現できないと判断
このようなシステム構成では、自社でコントロールできない社外のGPUをUMA内に取り込むことは得策ではありません。例えば、より高性能な他社のGPUをシステムに取り込んだとして、それをiPhoneのような省電力性能が優先される用途にスケールダウンするのは、困難だと考えているようです。
Appleはこれを「Pro-ClassGPU」と呼んでいます。
iPhone、Mac Proでも搭載できる柔軟性が特徴の「AppleGPU」
一方で、アップルシリコンはiPhoneのようなモバイルデバイスに採用可能なGPUを採用していると同時に、M2ウルトラを見ればわかるように、そのGPUコア数(最大16コア)とメモリ帯域をスケーラブルに拡張することができる柔軟性が特徴です。
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2023年9月に発表されたiPhone15プロ用「プロクラス(Pro-Class)GPU」
2023年9月に発表されたiPhone15プロシリーズの心臓部「A17 Pro」では、そのGPUデザインが大きく見直され、アップルはこれを「プロクラス(Pro-Class)GPU」と呼んでおり、新たにメッシュシェーディングに対応し、レイトレーシングのハードウェアアクセラレータを実装しています。
さらに演算性能を倍増したニューラルエンジンと組み合わせ、超解像技術によるアップスケーリング機能も実現している。
iPhone 15 Proシリーズの心臓部
「A17 Pro」のGPUコアはシェーダアーキテクチャを刷新してメッシュシェーディングに対応、さらにレイトレーシングのハードウェアアクセラレータを初搭載するなど新機能が多数採用されています。
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プロクラスGPUはメタル3に最適化された最新のGPU
実は、これらの新機能のほとんどは、2022年のWWDC2で発表された新しいグラフィックAPI「メタル(Metal)3」で採用された機能です。メタル3ではメッシュシェーディングへの対応、レイトレーシングの最適化、超解像技術「メタルFX アップスケーリング(Metal FX Upscaling)」などが新機能として実装されましたが、A17 ProのGPUはハードウェアでこれらの処理をアクセラレート(加速)できます。つまり、プロクラスGPUはメタル3に最適化された最新のGPUだといえます。
メタル3の目的
メタル3の目的は、グラフィックスの質感を高めてユーザによりリッチなゲーム体験を提供することです。そして、それを最も必要としているのが、ウインドウズ(Windows)PC向けのゲームをMacに移植するための「ゲームポーティングツールキット(Game Porting Toolkit)」です。
最新のゲームを体験できるアップル製品を目指す
A17プロに採用されたプロクラスGPUがスケールアップして次世代Mac用アップルシリコンに搭載されることで、高性能なGPUカードを搭載したウインドウズPCやゲーム専用機に匹敵する、リアルで没入感の高いグラフィック体験をMacユーザに提供することを目指しているようです。
「Apple GPU関連用語」のご紹介
GPUカード
NVIDIAやAMDなど、独立したGPUチップを搭載したPCleカード。最近のハイエンドGPUカードでは、最大24GBもGDDR6X SDRAMを専用メモリとして搭載し、300W近くにおよぶ消費電力の大きなものも存在します。
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eGPU(External GPU)：PCIeに外付け接続するGPU
GPUチップとビデオメモリThunderboltポートを介してPCIeに外付け接続するもので、Blackmagice GPUなどがその代表。MacBookシリーズのようにGPUカードを搭載できないMacでも、GPU性能の強化やディスプレイの増設が可能です。
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Fabless（ファブレス）
自社で生産設備(Fab)を持たずに製造業を営む企業を指す。Appleはシリコン設計を自社で行う一方で、チップ製造はTSMCなどの半導体製造企業に委託しており、iPhoneやMacなどの生産も製造受託企業(EMS)に委託しています。
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