食文化・料理

淹茶 ― 湯を注ぐだけで成立した新しい茶のかたち

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淹茶 ― 湯を注ぐだけで成立した新しい茶のかたち

風の通る座敷。 急須を温め、湯を注いで、ただ待つ。 火を使わない静かな時間が、茶の香りを立ち上げました。

淹茶とは何か

淹茶(えんちゃ)とは、 茶葉を煮ず、湯を注いで抽出する飲用法 を指します。 江戸時代後期に定着し、 煎茶の基本となった方法です。 煮茶・烹茶と異なり、 火は湯を沸かすためだけに使われ、 茶葉そのものは加熱されません。

成立の条件

淹茶が成立するには、 それ以前には満たされていなかった条件が必要でした。 ・蒸し・揉みが十分に施された茶葉 ・短時間で成分が出る製法 ・注ぎ切れる道具(急須)の存在 これらが揃ったことで、 初めて「注ぐだけの茶」が可能になりました。
要素 煮茶 烹茶 淹茶
火の扱い 茶葉を加熱 火から外す 茶葉は非加熱
抽出時間 長い 中程度 短い
味の性格 強く均一 中庸 繊細

急須という道具

淹茶は、 急須という道具なしには成立しません。
急須は、
・湯を一気に注ぎ
・短時間で抽出し
・すぐに注ぎ切る
という操作を前提に作られています。 横手急須の普及は、 庶民が淹茶を日常に取り入れた証でもあります。

味覚の変化

淹茶の普及は、 庶民の味覚を変えました。 煮茶では、 苦味や渋味は避けられませんでしたが、 淹茶では、 香り・甘み・余韻が意識されるようになります。 「どれだけ出すか」ではなく、 「どこで止めるか」が重要になったのです。

生活の中の淹茶

淹茶は、 すぐに番茶を置き換えたわけではありません。
・日常=番茶
・煮茶 ・来客
・改まった場=淹茶
という使い分けが長く続きました。 淹茶は、 生活に余白があるときの茶でした。

まとめ

淹茶は、 火を遠ざけることで、 茶を繊細な飲み物へ変えました。 湯を注ぎ、待ち、注ぎ切る。 その短い所作の中に、 江戸後期の技術と感覚が凝縮されています。 今、急須で淹れる一杯は、 この「淹茶」という発想の延長線上にあります。
「注ぐだけで、味は語り出す」

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