塩素ガスの歴史‐同じ力が、人を守る武器にも、人を害する毒にもなる

1774年
スウェーデンの化学者 カール・ヴィルヘルム・シェーレ が、二酸化マンガンと塩酸を反応させて気体を発見。 → 当初は「酸素を含んだ塩の酸」と考えられた。

1810年
イギリスの化学者 ハンフリー・デービー が、これは新しい元素であると証明し、Chlorine（緑を意味するギリシャ語 “chloros”） と命名。

 19世紀
・漂白剤として普及（「漂白粉＝塩素石灰」）。
・紙・繊維産業で利用。
・殺菌作用が注目され、水道水消毒にも利用され始める。

・20世紀前半
・世界各地で水道の塩素消毒が普及。感染症（コレラ・赤痢など）の大幅減少に寄与。

第一次世界大戦（1915年）
ドイツ軍がベルギーのイーペルで初めて大規模に塩素ガスを使用。
・約160トンの塩素ガスを放出し、フランス軍兵士に甚大な被害。
・世界初の大規模化学兵器攻撃として記録。 → 以後「イーペルの毒ガス」と呼ばれ、化学兵器の恐怖を象徴。

その後
戦争では化学兵器禁止条約（1925年 ジュネーブ議定書）により使用が制限されたが、研究は続いた。

産業・生活利用
・漂白剤（次亜塩素酸ナトリウム）、除菌、プール消毒、水道水殺菌。
・PVC（ポリ塩化ビニル）など化学工業に不可欠。

危険性の認知
・酸性洗剤や過酸化水素と混ぜると発生し、事故が後を絶たない。
・現代でも「混ぜるな危険」として強く警告されている。